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連載小説第2回

「物憂げな顔をしてどうしたんだい、洋平君よ」

話しかけてきたのは瀧澤梁、地学部の元部長である。
瀧澤その他の現在の3年生が2年生の終わりに引退する直前の段階で、
2年生40名、1年生30名の学内屈指の巨大な勢力となっていた。

地学部は、この瀧澤が入部する直前まで、
部員2名で同好会から解散に追いやられる寸前の弱小団体だった。
しかし、瀧澤入部後、当時2名だった部員は、
2名とも3年生だったため、直ぐに引退をし、
1年で部長・会計の実権を瀧澤が握ることとなる。
実権を握って直ぐに瀧澤が行ったことは生徒会の掌握だった。
数少ない学校から支給される部費を生徒会上層部への賄賂に回し、
規定人数に満たないことによる解散を回避する。
そして、次は宣伝活動である。
"地学"といってはどこかお堅いイメージだが、
「4泊5日で星を観に行くツアーを夏にやります」
と、合宿をより魅力的なキャッチフレーズとともに前面に押し出すことによって
生徒の目を引いたのである。
活動も活動で、地学を研究する活動などは一切せず、
晴れていればサッカー、バスケなどの球技、
雨が降れば部室でテレビゲーム、もしくは麻雀、将棋である。
俗に言うオタク層の取り込みのために瀧澤はカードゲームも数種類マスターしていた。
地学の研究をするのは文化祭1ヶ月前からである。
こうして、1学期の終わりに溢れてくる運動部の落ちこぼれ組を主なターゲットに、
勧誘を続けた結果、2学期初めには、1年だけで男子10名、女子5名を獲得する
躍進を見せたのである。
その後も、運動部落ちこぼれ組や将棋部・囲碁部落ちこぼれに対して、
「元々やっていた部活動と同じ競技を無理せず続けられる」ことを売りに
時には"負ければ入部、勝てばお小遣い"と言う風に賭け事の感覚で部員を増やし、
2年生になると直前で30名を獲得する。

そして、新入生歓迎のデモンストレーションでは、表向きは、
真面目な地学部としての活動を押す一方で、
少しでも興味を持った生徒には片っ端から”自由な活動内容”をアピールすることで、
地学を真面目に研究したい生徒もとりあえず何か部活に入って友達を作りたい生徒も
懐柔することに成功し、入部人数は前年の20倍の20人を記録した。
瀧澤は後継者の育成にも余念がなく、
地学を真面目に研究したいと志願して真っ先に入ってきた岡谷豊香を副部長に据え、
研究費を自由に使う実権を与えた。
そして、何となく入部してきたもののお調子もので人気のある小布施孝彦には、
学校周りでの遊び方など悪い知識を叩き込む一方で、
自分の団体維持、発展のノウハウを同時に教え込んだ。
こうして、正統派地学部とオールラウンダー地学部という2つの側面を兼ね備えた地学部は、
絶大な人気を誇り、瀧澤が引退する昨年度末まで発展を続けることになる。
瀧澤は言う「すべてゲーム感覚だった」と。
「どん底の団体を自分の戦略でどこまで立て直せるか試してみたかったのだ」と。

これが全て瀧澤の戦略による功績かと言われると、
それに関してはノーと答えざるを得ない。
瀧澤の特異な人柄があってはじめて、この躍進は成ったのである。
瀧澤は奇妙なまでにフェアな男である。
男に対しても、女に対しても、
成績のいい者、悪い者、気の弱い者、少し尖っている者、
体育会系の者、文科系の者、オタクな者、
どんな人間に対しても全く同じ接し方をしていた。
変に誰かに媚を売るということもない。
そして、誰に対しても、着かず離れずで、一定の距離感を保っていた。
浮いた話など一切ない。
ただ、どんな人間とも同じ校内で出くわせば必ず声を掛けていた。
本人曰く「ロールプレイングゲームで町の人全員と話さないと気がすまない性分だから」
らしいのだが、それにしても特異な性格である。
そういった形で広めた人脈が地学部躍進の助けになったことは間違いない。

そんな瀧澤がいくら誘っても終に地学部に入らなかった男、それが澤井である。
澤井もまたフェアな性格であったため、瀧澤とは気があった。
この澤井のフェアな性格は、瀧澤のみならず、
他の同学年の変わり者にも気に入られる要員となっていたのだが、
彼らの登場まで、この話は後回しにするとしよう。
地学部に入らなかった所で、瀧澤と澤井の関係は無論崩れなかった。
お互い、いい話相手であるという関係を今日まで保ってきている。

「いや、なんでも……」

澤井は虚ろな目でぼそりと答えた。
だが、瀧澤はふんと鼻で笑うと、

「また1年の時のあのことを思い出してんのか?」

と、気まぐれに尋ねた。

| 金:黒岩サトシ | 16:33 | comments:0 | trackbacks(-) | TOP↑

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